昨年のKITAKAGAYA FLEA & ASIA BOOK MARKETにて。
自分のせまい生活圏ではあまり見かけないような本が並ぶ中、『秋刀魚』という雑誌がひときわ目に留まった。どの号の表紙をみても直感に訴えてくる良さがあり、変わったタイトルにも惹かれた。サンマ……サンマ……?
表紙とタイトルだけではなんの本なのか全然わからなかったが、どうやら日本のカルチャーを扱う台湾の雑誌ということらしかった。わからない言葉であってもある程度見知ったことが書かれているなら、読み始めるハードルは低いはず。いわゆる積読が何冊もある自分はそんなことばかり考えてしまう。
中身は一切確認せず、一冊選んで会計へ。そういう贅沢な本の買い方をすることでしか満たされない欲求がある。それに、失敗しないだろうと思える雰囲気と訴求力が『秋刀魚』にはあった。
秋刀魚


そうして購入したのは『秋刀魚 No.29新・世代生活清單』。巣ごもりのライフスタイルについてかかれている。知ってるな〜というモノ・言葉と、見慣れない漢字やレイアウトなんかがちょうどよく混ざって心地がよい。日本語だと、「情報を取りこぼさないよう追わないと……」なんて義務感を抱えながら読んでしまう自分には、むしろわからない中国語は気楽な読み方を思い出させてくれた。なんとなくではあるが読める(気がする)のも楽しい。もちろん全くわからない箇所もある。気になった場所は翻訳すれば二度楽しい。自分の“なんとなく読み”が正しいのか確かめるのもおもしろい。それがあまりに違っていることもままある。英語の長文読解の問題などで「全く」だったときの感覚を思い出した。
まだ知らないという状態でしか味わえない感覚がそこにはある。あとは単純に雑誌として、特集や企画が凄くおもしろい。机の端に積まれた本は増えなかった。
中国語は多くの人にとっても魅力のある言語だと思う。日本語の文から漢字以外を取り除いてそれらしくみせる偽中国語なんてものが生まれたり、中国語がかかれたアイテムを見ることも少なくない。(もっとも、偽中国語を良く思わない人もいるが)そこで『秋刀魚』で見つけた良いフレーズをいくつか紹介したい。
注意腦波來襲
おすすめのアイテムの欄に添えられたこのフレーズ、インスピレーション的な意味で“脳波”なのだろうか、それとも脳に直接訴えかけてくるような良さということなのか。襲ってくるという言い回しを含めてなんかいいなと思う。自分にも脳波が来襲してほしい。注意腦波來襲!
紙箱的人生跑貓燈
Amazonから届いた段ボールを開き、そこに猫に入ってもらうという記事の見出し。段ボールから荷物を取り出すまでの手順が書かれていたりと。まず記事がかなり変わっていてすごく良いのだが、このフレーズからも変な良さを感じる。段ボールの一生とそれに身を預ける猫。
「貓」の後に付いている明かりを意味する「燈」は、尊いものをさす“光”のイメージなのだろうか。
擁抱在蔚藍海中的平行世界
八景島シーパラダイスの運営元が台湾にオープンしたXparkという水族館を紹介する記事の見出し。「深い藍色の海に抱かれたパラレルワールド」という意味だが、なぜだか日本語よりも幻想的なイメージを強く感じる。これも知らないからこそ得られる感覚なのだと思う。きっとネイティブの人にとってはなんてことはなかったりするのだろう。
新垣結衣のお面を被った4人がゲームをするなど、おおよそ正気とは思えない特集があったり、インタビュー記事の編集部の顔アイコンがサンマの写真だったりと最高の魅力がつまった『秋刀魚』。みなさんも自分の好みにあったアジア本を見つけ、自由に読んでみてはいかがだろうか。そしてぜひとも不思議な魅力に包まれた『秋刀魚』を手に取ってみてほしい。こんな雑誌は他にないから。
山本
東アジア本の楽しみ方